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村山哲也強化ダイレクター「内向きから外向きに変わってきた」【独占インタビュー/今季総括・前編】※無料

昨年11月に就任した村山哲也強化ダイレクター。J1や海外の舞台を経験してきた中で、J3クラブに挑戦の場を移して1年が経った。リーグ終了後の独占インタビューに応じ、今季を総括。前編ではクラブの変化、後編では来季の補強方針について赤裸々に語る。

限りある資源ではなく、限りない夢を

――昨年11月の就任から1年が経ちました。この1年でのクラブの変化はどう感じていますか?

まずは「限りある資源」という言葉が、クラブの中で常にありました。もちろんそれはそうなのですが、これまでは内向きにどうにかしようとしていたところが、外向きに変わってきた印象はあります。私は「限りある資源」ではなく、「限りない夢」と捉えるようにしています。我々は上を目指しているクラブで、レディースチームにおいては『長野から世界に』というコンセプトも掲げました。囲まれた中に入るのではなく、それを打ち破って無限に広がっていくこと。夢、人員、予算…。いろんなものが広がったほうが、絶対にいいわけです。

この1年で、そういうところが少しずつ出てきました。スポンサー営業も県内ばかりになっていたところを、県外にも足を伸ばそうとしていて、実際にアクションも出始めてます。「選手が街に出ない」という声も聞いていたので、制約がある中でも「なんでもやりましょう」と方針転換をしています。レディースチームは今年の『長野びんずる』に全員が参加して、最優秀連賞を受賞しました。もうすでに1冠目を獲ったんです(笑)。

そうやって地域にどんどん出ていった結果、イベントの件数は相当数増えました。広告物やグッズも自社のアイデアをふんだんに使いながら、そのときどきのトピックスに合わせて、リアルタイムなものを出しています。それは皆さまにも感じていただけたと思います。

そのためにもクラブに話題性がなければいけなくて、ラッピングバスの完成もそうです。これまでと大きく違うのは、「やらないといけない」ではなくて、我々から仕掛けているということ。自分たちから外向きに一歩踏み出しているということ。なかなか伝わりづらいところもあると思いますが、クラブが動いているのは間違いありません。そこはぜひ、各担当の方々にも話を聞いていただければ幸いです。

――レディースチームで言えば、いわゆる“タイ効果”も出てきているように思います。11月のホーム開幕戦では、タイ王国大使館がご来訪されました。

私がタイにいたことも少なからず関係していますが、より価値のある外国籍選手を連れてきたい中で、タイとマッチングしました。それも長野市がタイのインバウンドに力を入れていることをリサーチした結果です。そこから先に結びつけるために、タイや東南アジアでの戦略を持つ地元企業もリサーチして、実際に何社かありました。パルセイロがハブになって、地域、経済、政治といろんなものを繋いでいければと思っていました。

それも偶然ではなく、我々から仕掛けていることです。ここからどれだけ広げるかという観点からすれば、資金的に膨らませることはいくらでもできます。そういうきっかけがこの地域にあるのはプラスですし、パルセイロがサッカーを通じて人と人を繋ぐマッチングツールになれば、地域に必要とされる度合いが高まります。そのチャンスを待っていても何も変わらないので、我々から仕掛けて、目に見える形になってきているのが現状です。

ティーラシン妹のタイ代表獲得秘話と、その先にある海外戦略

――どうしても目先の資金を追ってしまいがちですが、いまはその前段のフェーズを踏んでいるように思います。

いままではそこが足りていなかった中で、今年は一歩踏み出すことができました。先ほど仰っていただいたレディースチームのホーム開幕戦では、タイ王国大使館の方や荻原健司市長がご来訪されて、国と国を繋ぐような役割を果たしました。それに興味を持たれる企業の方々も来られて、VIPルームが異業種交流会のような雰囲気になりました。それこそがパルセイロの存在意義だと思っています。

――そういったハブになりつつ戦力としても計算できる選手を獲得するのは、簡単なことではないのかもしれません。

マイ(タニガーン・デーンダー)もエム(ナッタワディ・プラムナーク)も、スタメンに割って入るだけのポテンシャルは間違いなく持っています。シュートの技術だけで言えば、マイはチームで一番うまいと思います。90分間出るにはまた違った要素が必要ですが、戦力かつ国と国を繋ぐハブになれます。

我々の選手たちはA代表の経験がないですが、『長野から世界に』というコンセプトからすれば、そこを目指すようなメンタリティを持ってほしいと思います。マイはスウェーデンと中国、エムはアメリカでもプレーしていました。そういう経験をチームに落とし込んで、これから入ってくる新卒選手たちにも刺激を与えてもらいたいです。

100年、200年先へ続くビジョンを

――ご自身は強化の仕事だけでなく、地域貢献や講演会、スクールなどにも奔走されています。強化以外の仕事についてもお聞かせください。

与えられた仕事をこなすのは当たり前ですが、私は幼稚園から大学生、プロに至るまで、すべてのカテゴリーを指導した経験があります。タイではGMという役職に就いて、運営や広報、営業を指導する立場でもありました。どうしてもいろんなところに目が行ってしまいますし、時間があれば携わりたいと思っています。

日本でトップチームとレディースチームを兼務している強化担当は、他にはいないかもしれません。そうやって時間が限られた中でも、必要であれば営業に行きますし、スクールで子どもたちに教えますし、グラウンドのラインも引いています(笑)。講演会も大人向け、子ども向けと両方やらせていただきました。現場と同じくスタッフにもアグレッシブさが求められますし、それを私自身が率先して体現しないといけないところもあります。目一杯になったところで、もう一歩、二歩が出せるか。そこが勝負どころだと考えています。

――以前インタビューした際に、「長野にはポテンシャルがある」と仰っていました。私自身もそう感じて長野の番記者に赴任しましたが、ポテンシャルをポテンシャルのままで終わらせたくない想いがあります。

ポテンシャルは間違いなくあります。そのポテンシャルをより引き出すためにも、クラブとして体力をつけることが必要です。それは人員や資金もそうですし、目指すフットボールの方向性もより高い次元にしていかないといけません。

村山哲也強化ダイレクター「長野はポテンシャルのあるクラブ」【独占インタビュー】

――人が入れ替わることはあれど、長野としてのアイデンティティーは変わらずにあってほしいです。まずはそのアイデンティティーを明確に築き上げてほしい思いもあります。

まさにいまはそこをやるべきです。現場の長野スタイルというのは、なんとなく見えているものがあります。縦にスピーディーで、ゴールへ向かうエネルギーがある。トップチームとレディースチームはそれを体現していますし、スタンドが沸くシーンが増えれば、自ずと観客も増えていきます。個で勝つのではなくて、全員が躍動して走り勝つ。それが我々のスタイルだと思います。

――その中でJ2昇格が大前提にあると思いますが、もし昇格できなかったとしても、そのスタイルを見せ続けて観客の心をつかむことも重要だと感じます。

それが根付かせるということだと思います。もちろん昇格というのは大前提にあって、それがクラブや地域の短期的な上昇にも繋がります。ただ、それを維持、継続していくことを考えると、楽しいスタイルを継承しないといけません。「あそこに行けば面白いサッカーが見られる」というアトラクションを、どれだけ構築できるか。その地道な継続が、クラブのアイデンティティーになります。

Jリーグには『百年構想』という理念があります。いまの我々のやり方が100年続くのかと言えば、正直かなり厳しいですが、100年続くように持ってこられるかが大事です。J1に100年いられるクラブはなかなかないですが、カテゴリーを問わないアイデンティティーを築き上げられるか。「パルセイロってこうだよね」と言われるものを、どれだけ地域に落とし込んで、愛してもらえるか。それが100年、200年と続けられるか。そういう大きなビジョンをもとに、現在地を考えるべきだと考えています。

後編へ続く>

村山哲也強化ダイレクター「『かける』が強い選手を加えたい」【独占インタビュー/今季総括・後編】

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