長野県フットボールマガジン『Nマガ』

村山哲也強化ダイレクター「長野はポテンシャルのあるクラブ」【独占インタビュー】

昨年11月にAC長野パルセイロへ就任した村山哲也強化ダイレクター。ガンバ大阪で強化担当としてのキャリアをスタートさせ、清水エスパルスやジェフユナイテッド市原・千葉を経て、サンフレッチェ広島へ。就任初年の2015年には、森保一監督・現日本代表監督とともにJ1優勝を経験した。その後はタイのサムットプラーカーン・シティFCでGM兼監督を務めるなど、実績豊富な49歳。就任後初となる独占インタビューに応じた。

一度離れた第一線へ。長野に感じた可能性

――まずは昨年11月、リーグ3試合を残すタイミングで途中就任しました。そこに至るまでの経緯を教えてください。

11月に強化アドバイザーとして、クラブ全体の方向性、トップチームの現状を改善するためのアドバイスをする立場で加わりました。それ以前にもホームゲームを観戦して、数カ月を経て正式な就任に至りました。実は数年前にもお声掛けいただきましたが、そのときは就任に至りませんでした。

 ――就任前には家業を手伝っていたという話もお聞きしました。

タイから帰国後は実現こそしなかったものの、J1クラブからも話がありました。あとは海外から地域リーグまで、指導者としての誘いもいただきましたが、家業を手伝うことが決まっていたのでお断りしました。2022年に横浜F・マリノスのサッカースクールで指導を始めるまでは、ほとんどサッカーに関わっていなくて、メディアを見ることもなかったです。そこからたまたまマリノスがスクールコーチを募集しているのを見たので、一般応募しました。すぐにクラブの方から「一般応募する立場ではない。明日にでも来てくれ」と連絡がありました(笑)。

朝から家業を手伝って、夕方からスクールで指導するWワーク。それにある程度は満足していましたけど、いざ現場に出始めるといろんな方に会います。それこそトップチームとアカデミーを兼務している安達亮さん(育成部長兼トップチームアシスタントコーチ)とも話をする中で、もっと刺激がほしくなりました。一旦はシャットアウトしたはずのサッカー愛が、沸々と湧き上がってきたようなイメージです。

――私の知り合いにも、一度はJリーグの現場から離れたものの、会社員を経て戻った方がいます。この世界には、そういう引き寄せられるものがありそうです。

そうですね。あとは一旦やめると決めたものの、やり残したこともありました。タイではGM兼監督として、クラブのハード面を整備しましたが、いまとなってはクラブが消滅しています。もう少し時間をかけてやれれば、国内のトップレベルに持ってこられたかもしれません。成績としても下位にいたチームを優勝争いに持ち込めたので、決して悪くありませんでした。その後に石井正忠さん(現タイ代表ディレクター)が監督を引き継いで、ブリーラム・ユナイテッドFC2季連続3冠)やタイ代表にまで上り詰めています。それを見ても「もっとやれた」と思うところはありつつ、自分でむりやり蓋をしていたところもありました。

――そこからJ3の長野に強化担当として就任しましたが、どんな決め手がありましたか?

長野はポテンシャルのあるクラブです。あれだけ熱い信州ダービーがあって、それを盛り上げるサポーターがいる。そして何より、長野Uスタジアムは素晴らしい環境です。そこをホームグラウンドに戦えるのは、とても大きなことだと思います。

事業部長の森脇豊一郎もそうですが、広島ではアジア戦略も含めて、世界に目を向けていました。86日の『原爆の日』には、各国の首脳が平和を願って訪れる。そんな地域はなかなかないと思います。サッカーは平和友好を繋ぐツールになるし、来年には我々がいた頃から計画されていた新スタジアム(EDION PEACE WING HIROSHIMA)もできます。

そういった国際的なポテンシャルを持った都市が、他にはあるのか。そう考えると、長野は1998年にオリンピックを開催した背景があります。長野から世界に発信するだけのスタジアムを備えていて、長野市もインバウンドに力を入れています。世界に目を向けるだけの材料が揃っているので、ここで改めて挑戦したいと思いました。

――私が番記者に赴任した背景にも、そういったポテンシャルを感じた部分は大いにありました。

いまはJ3ですが、段階的にクラブを大きくして、J2J1ACL…。そこまで広がるだけのイメージはできます。外側の要素に目を向けても、可能性は十分にあると思います。

綿密な補強プランと、監督交代の背景

――強化の話に移ると、今季の補強においては3本柱を掲げていました。その中でも、ライバルチームの松本山雅FCから大野佑哉選手を獲得したことが話題になりました。そこに至った経緯を聞かせてください。

松本から選手を獲得することは、ダービーを盛り上げる意味でも最初から考えていました。前年のダービーがものすごく盛り上がって、Jリーグにも賞賛された。これを今年も盛り上げないことには、長野を盛り上げることには繋がりません。まずはダービーをどう盛り上げていくか。その中で松本の選手から数名リストアップして、ポジションとしてはセンターバックの補強が必要でした。大野はスピードがあって、ディフェンスラインの背後のケアに長けています。それによってチームが全体のラインをコンパクトに保てるので、戦い方のイメージと合致しました。 

ダービーを盛り上げるためのストーリーは、もともと描いていました。シーズン前の補強もそうだし、ダービー直前にはラッピングバスも完成しました。ダービーというコンテンツがあったからこそ、こういった動きができたと思います。フロント全体としても、そこに向かっていく思いは強くありました。

アリーナのラッピングバス完成秘話。10年分の想いを乗せて

――いざ編成を終えてキャンプに向かいましたが、3人しかいないGK陣に負傷者が出るアクシデントもありました。そこですぐさま、大分トリニータから濱田太郎選手を獲得。新加入会見で3人編成への懸念についてはお聞きしましたが、すでに準備はできていたのでしょうか?

(残り 4983文字/全文: 7505文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ