長野県フットボールマガジン『Nマガ』

タイキャンプ開催の意義とは。関係者の声とともに振り返る

チーム史上初となるキャンプが、異国の地で行われた。1月下旬から11日間にわたって実施された『KITZ presents AC Nagano Parceiro Ladies Thai Camp 2024(タイキャンプ)』。トレーニングだけでなく多種多様なイベントにも出演し、充実した日々を送った。

主体性を持ってイベント参加。貴重な経験得る

ダイナミック・フットボール・キャンプを拠点として、共同生活を実施。普段は仕事を抱える選手がいることもあり、トレーニング以外でともに過ごす時間は限定的だ。キャンプは互いを知る貴重な機会であり、廣瀬龍監督は「選手たちの私生活がよく見えた。チームを預かる身として勉強になった」と振り返る。指揮官にとってはかつて、サムットプラーカーン・シティFCのヘッドコーチとして身を置いた環境。「私が仕事をしていたところに、また違うチームで来られたのは嬉しかった」。

廣瀬龍監督

「みんなで長い時間を過ごすことは今までなかった。知らないことが見えて、仲も深まっていった」。キャプテンの伊藤めぐみは、そう笑みをこぼす。現地の人々と触れ合う機会も多くあったが、両手を合わせて敬意を示す『合掌』に親しみやすさを覚えたようだ。タイ人の性格や気質を知ることによって、チームメイトのタニガーン・デーンダーとナッタワディ・プラムナークに対する理解も深まったという。それは2人にとっても同様で、タニガーン・デーンダーは「いろんな話をして親密になれた」と語る。

タニガーン・デーンダー「いろんな話をして親密になれた」【タイキャンプ総括コメント】

トレーニングのみならず、さまざまなイベントもこなした。終盤にはサッカー教室の“ダブルヘッダー”を敢行。キャンプの冠スポンサーであるKITZの現地社員、児童養護施設の子どもたちと連続して交流を図る。3時間を超える長丁場だったが、選手たちは主体性を持ち、最後まで懸命に励んでいた。「我々の選手たちは大変明るい。感謝の気持ちを持って取り組んでくれた」と廣瀬監督が言えば、伊藤めぐみも「みんなの明るさがあるからこそ、協力してくれる方々についていける。このチームの良いところだと思う」と話す。

タイキャンプ始動から1週間。イベントも練習もハードワーク

それは関係者も感じているところだ。キャンプのコーディネートを行った佐々木裕介フットボールツーリズムアドバイザーは、「シャイな選手たちであることも想像もしていた中で、嬉しいことに全く逆だった。言葉が通じない中でも、懸命にコミュニケーションを図っていた」。自身も選手の意見を取り入れながら、食事のメニューを調整するなど奔走。ともに時間を過ごした中で、「あれだけ異文化に順応する姿を見て、純粋にすごいと感じた。すぐに結果には結びつかないかもしれないけど、今後の人生に生かしてもらえたら」とエールを送る。

伊藤めぐみが「すごく良い経験になった」と回顧するのは、女子サッカーについて議論する『Women’s Football Industry Conference 2024』だ。タイサッカー協会や現地法人の面々も出席する中で、活発な意見交換を行う。「アジアのチームの一員として、女子サッカーについて考えて発言する機会はなかなかない」。AC長野パルセイロ・レディースというクラブの魅力はもちろんだが、WEリーグのポテンシャルを示す意味でも貴重な場だった。

日本×タイのカンファレンス。女子サッカーについて議論交わす

踏み出した一歩。男子が参画する可能性も

今キャンプはアジア戦略の一環に過ぎないが、クラブとしては大きな一歩でもある。「女子のチームが海外でキャンプをすることは珍しい。クラブの規模も大きくない中で、こういうチャレンジをすることには意義を覚える」。アジア戦略のアドバイザーを担う、株式会社FAR&EASTの小山恵代表取締役の弁だ。Jリーグの国際展開を手掛けてきた身として、「単純なクラブとしての取り組みだけでなく、タイと日本、タイと長野を近づける意味でも大きな意義があった」と捉える。

昨夏にタイ女子代表の2選手が加入。Jリーグではチャナティップ(元コンサドーレ札幌、川崎フロンターレ)らの活躍によって、日本とタイの関係性が深まっていったが、その流れをWEリーグにも波及できる可能性はある。「日本はW杯を優勝したこともあって、アジアの中でも強豪国として意識されている。そこにタイを代表するような選手が挑戦することは、現地でも話題になる」と小山氏。それは今キャンプに現地メディアが訪れていたことからも分かる。

(左から)タニガーン・デーンダー、ナッタワディ・プラムナーク

現状は女子チームを主軸とする戦略だが、クラブは男子チームも抱えている。J3という下位カテゴリーに属しており、トップレベルのタイ人選手を獲得する障壁は高い。それでも本拠とする長野市の外国人宿泊者数においてタイが3位であり、行政としてインバウンド施策を強化していることは追い風となり得る。チームの上位カテゴリーへの進出とともに、その可能性は広がることだろう。

キャンプを通して、各々の視野も広がった。「選手たちが考えていることを知って、クラブとして改善すべき点も見えてきた」と三澤智松統括本部長。キャンプに帯同することによって、より現場の目線を会得できたという。選手たちからは、言葉の壁に直面する中で「英語を勉強したい」との声もあったようだ。今後はスポンサー企業と提携しながら、英会話教室を開くことも示唆。クラブ全体としてグローバルな視点を持つことは、アジア戦略の加速にも繋がるだろう。

三澤智松統括本部長

リーグ再開は3月3日。タイキャンプを経て期待が高まる中で、「良い結果を残して、今後も(アジア戦略を)継続できるような形にしていきたい」と廣瀬監督は口にする。伊藤めぐみも「自分たちの知らないところで、いろんな方々が支えてくれる。結果はもちろんだけど、ピッチの上で一生懸命プレーする責任を感じた。シーズンを通して成長する姿を見せられたら」と意気込んだ。

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