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ティーラシン妹のタイ代表獲得秘話と、その先にある海外戦略

Jリーグファンをも騒がせるニュースが女子サッカー界に舞い込んだ。AC長野パルセイロ・レディースは7月26日、タイ女子代表FWタニガーン・デーンダーの獲得を発表。サンフレッチェ広島や清水エスパルスでプレーしたFWティーラシン・デーンダーの妹が、WEリーグに参戦することが決まった。

仕掛け人となったのは、今季から就任した村山哲也強化ダイレクター(男子チーム兼務)。ガンバ大阪や広島ら強豪クラブで強化担当を務め、広島時代にはティーラシンの獲得も手がけた。タイ1部リーグ・サムットプラカーンシティーFCのGM兼監督としても腕を振るい、同国のサッカー事情にも精通している。

近年はチャナティップ(元川崎フロンターレ)やティーラトン(元横浜F・マリノス)らがJリーグで名を馳せたが、WEリーグにタイ人選手が加入したのはポンピルン・ピラワン(元マイナビ仙台レディース)に続いて2人目。その舞台裏と、先に見据える海外戦略へと迫った。

競技面と経済面。両軸に期待を寄せて

6月に行われた廣瀬龍新監督の就任会見で、村山強化ダイレクターは『長野らしさ』と『長野から世界へ』という2つのコンセプトを掲げた。今回の戦略は、言わずもがな後者に当たる。エース・瀧澤莉央の海外挑戦による退団もあった中で、さらなる「インパクトある形」として外国籍選手の獲得に至った。

村山哲也強化ダイレクター

タイ人選手を選んだのは、競技面と経済面の伸びしろを踏まえてのことだ。タイ女子代表は2015年にW杯初出場を果たし、前回大会まで2大会連続で出場。男子も含めてナショナルチームが人気を誇っており、昨年には女子プロリーグも始動した。タニガーンは女子の中心選手として活躍し、Instagramのフォロワー数は約8万人にも及ぶ。クラブとしては競技力と発信力の両軸に期待を寄せている。

兄のティーラシン(182cm)と同様、タニガーンも173cmと長身を誇る。身体能力が高い上に、「シュートの技術やボールを受ける技術もある」と村山強化ダイレクター。チームは瀧澤の退団を受け、FWの補強を急務としていた。INAC神戸レオネッサからドリブラーの宮本華乃を獲得し、さらに長身のタニガーンを加えたことで、前線のキャラクターが多様化。タイは日本に比べてスピードや強度で劣る部分もあるが、「そのあたりも鍛えていければ十分に活躍できる」と展望する。

村山哲也強化ダイレクター(左)、タニガーン(中央)

もう一つの狙いは経済面だ。長野県はタイからのインバウンドに注力している。7月24日には長野市の荻原健司市長が、就任後初の海外公務としてタイと中国を訪問することを発表。クラブとしてはタイ人選手の獲得によって、行政とのプロモーションを展開できる可能性は大いにある。県内におけるタイ人コミュニティの試合観戦やタイ人雇用企業の協賛、現地でのスポンサー獲得やグッズ販売など、新たな収入源も見込めるだろう。

タニガーンの加入が決まった際には、現地のテレビ番組でニュースとして報じられ、AC長野パルセイロ・レディースの試合映像も流れた模様。日本国内でもティーラシンの妹ということもあり、JリーグとWEリーグの海外向けアカウントで取り上げられるなど、話題性は十分だ。

さらなる開拓へ。輸入だけでなく輸出も

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