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シュタルフ長野の終幕。生まれた一体感、噛み合わなかった歯車

『ORANGEの志』は道半ばで途絶えたが、見る者の心に引き継がれた。

8月28日、AC長野パルセイロはシュタルフ悠紀監督の解任を発表。就任1年目の昨季を8位で終えると、今季は第7節で首位に立った。第10節では松本との信州ダービーに勝利。Jリーグ参入後初のダービーでの白星を挙げ、クラブ史上初となるシーズン2度目の首位に導いた。

しかし、以降はまさかの急降下。クラブワースト記録の9試合勝ちなしと苦しむ。狂った歯車は噛み合うことなく、第23節・岐阜戦で1-5と大敗。クラブワースト記録となる5失点を喫した。続く奈良戦で今季3度目の連敗となり、約1年半の指揮に終わりを告げた。

高低差のあるジェットコースターに揺られる中で抱いた、一体感と喪失感。その光と影のコントラストは、時に強く、時に淡いオレンジを映し出した。

ピッチ内外で生まれた期待感と一体感

インパクトは絶大だった。2年前の12月10日、クラブの公式発表に先んじて、地元紙が新監督としての就任を発表した。Jリーグ史上最年少での指揮を記録し、史上初のレッドカードも受けた当時37歳。若さ、熱さ、そして緻密さを兼ね備えた男の到来に、誰もが心を躍らせた。

就任当初からリフレッシングなアタッキングフットボールを掲げた。前体制の横山雄次監督が築いた堅守を継承しつつ、ロングボール主体からビルドアップを軸に転換。そのスタイルは着々と積み上がっていったが、ゴール前での精彩さを欠き、得点数はリーグ8位の42得点と伸び悩んだ。チャンスクリエイトがゴールに結びつき切らず、順位も得点数と同じく8位。それでも15チーム中9位から18チーム中9位に引き上げ、2年目への期待感を膨らませた。

その期待感はピッチ上だけにとどまらない。自身のInstagramでは、試合ごとに展望と振り返りを投稿。ファン・サポーターのコメントにも返信するなど、サポーターとの距離は近しいものがあった。いざ試合となれば、選手とともにウォーミングアップ時に姿を現す。サポーターに挨拶したのち、ボールボーイとグータッチを交わした。試合後も場内を周回し、勝利後にはシャナナ(ラインダンス)にも混ざり、喜びを分かち合う。チームチャントである『共超』も、シャナナの後に歌う曲として定番化した。

日頃のトレーニングの雰囲気も変わった。横山監督の最終年(2021年)は成績も伴わず、いくばくかの閉塞感があった。発信源となる選手も少なく、選手と監督の距離感も遠く感じられた。それは監督によってスタイルも異なるため、一概に否定するわけではないが、シュタルフ監督は選手との距離感がとにかく近かった。

その一体感を生み出した一因は、共通言語だ。チームコンセプトとして掲げられた『ORANGEの志』。アルファベットの頭文字をとって『One Team』、『Run Fast』、『Aggressive Duels』、『Never Give Up』、『Grow Everyday』、『Enjoy Football』と志を定めたものである。

現場だけでなく、サポーターにも浸透。『長野をオレンジに』『ORANGE FOOTBALL』といったキーワードも生まれ、メディアとして改めて言葉の力を感じさせられた。その発信力は唯一無二であり、それが選手、スタッフ、サポーターへの求心力にも繋がった。

賢守猛攻。セットプレーにも磨き

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