長野県フットボールマガジン『Nマガ』

番記者信州ダービー。二度あることは三度? 三度目の正直?【田中紘夢×大枝令】

いよいよ今週末に迫った信州ダービー。昨季は松本山雅FCの2勝1分に終わったが、今季はAC長野パルセイロがここまで2勝と勝ち越している。

J2昇格の行方も左右する第3ラウンド。二度あることは三度あるのか、三度目の正直となるのか。長野の番記者・田中紘夢と、松本の番記者・大枝令が試合を展望する。

互いに苦しむも、分岐点となり得る一戦

田中 まずは両チームの現状をお話ししたいと思います。互いに波に乗りきれない中で迎えるダービーですね…。松本は前節、岩手に1-4と大敗しましたが、内容からすれば勝っても不思議ではないゲームでした。

大枝 そうなんだよ。前半からある程度はボールを動かしていて、その中で決めきるところを決めきれず、警戒していたワンチャンスでやられてしまった。守りきれなかったのもそうだし、決めきれなかったのもそう…。

田中 特に小松蓮は1点を決めはしましたけど、悔しい想いをしたと思います。

大枝 ストライカーは瞬間で選択肢を決めないといけないからね。しかもゴール前は最も瞬時の判断が求められるエリアだから、その週に何をやってきたかとか、何を意識してきたかというのも出やすいと思う。例えば村越凱光も、ある試合で利き足の左に持ち替えて打とうとしたら入らなくて、次は逆に頑張って右足を使ったり。ゴール前では普段の取り組みが出やすいのかな、となんとなく思ったよ。

田中 前々節の八戸戦では、自分たちのサッカーに持ち込めない中でも勝ちきりましたね。前節もハーフタイムに山口一真を入れたり、後半途中に3バックに代えたりして、流れを引き寄せていました。そういう意味では、柔軟性を備えているように見えます。

大枝 いままでは自分たちがボールを握って、やってきた仕組みを表現することが最短ルートという考えでやってきたからね。八戸戦は「勝つ確率が一番高いことは何か」という中で、霜田さん(霜田正浩監督)はそれが最短ルートではないと判断したわけで。山口、大宮時代には考えられないような采配だったみたいで、(山口時代にも共闘した)小松蓮もかなり驚いていたよ。それで結果が出たからこそ、この間の岩手戦に繋げたかったんだけどね。2週連続のホームだし、岩手戦で弾みをつけてダービーに向かいたかったのは間違いない。

田中 パルセイロとしても難しいところですね。髙木さん(髙木理己監督)に代わって「前から行く」というベクトルが統一されて、内容は着実に上向いています。ただ結果だけを見れば、就任以降は2勝3分1敗。内容は良くても、勝ち点を落としているところはあります。前節八戸に引き分けて、数字上は昇格がかなり厳しくなりました。もちろん諦めてはいないですけど、せめてダービーで全勝して、山雅よりも上に行きたいところはあると思います。逆に山雅は数字上の望みがわずかにあって、しかもパルセイロにはもう負けられない。これまでのダービーはパルセイロのほうがピリピリしていましたけど、今回は山雅のほうがピリピリしているかもしれません。

大枝 それはあるかもしれないね。パルセイロはシーズンが始動した当初から、ダービーに対する相当な想いが伝わってきたよ。大野佑哉を筆頭に、山雅には縁のない選手もそうだけど、髙木さんも就任するなり山雅を意識していたから。逆に山雅の選手たちは、パルセイロにフォーカスするよりも、まずは自分たちのスタイルを作って勝つことに重きを置いていた。それでも霜田さんはダービー前には相当強い言葉をかけていたみたいだし、負けた後も相当な悔しさを滲ませていたよ。「二度あることは三度ある」と言うけど、三度あってはいけないからね。

田中 どちらが勝つにしても、ターニングポイントになりがちな試合ですよね。パルセイロはリーグ前半戦のダービーに勝って、そこから失速してしまいました。

大枝 去年の後半戦の山雅もそうだったね。ダービーにはものすごいエネルギーを注ぎ込むだろうし、取材している私たちも疲れない?

田中 いつもよりメディアの数が多かったり、特別なコンテンツがあったり…。たしかに疲れるところはあります(笑)。

大枝 プレビュー一つ書くにも、気迫を込めないといけないからね(笑)。去年の後半戦はルカオのゴールで競り勝って、ここから波に乗るかと思いきや、次の富山戦で4失点。その次の宮崎戦も4失点。今年のパルセイロも前半戦のダービーは素晴らしかったけど、流れが続かなかったね。

田中 まだシーズンは終わっていないですけど、あの試合は今季のベストゲーム候補筆頭です。去年の後半戦のダービーに関して言えば、終盤にパルセイロの選手が主審と衝突して、それが結果的に失点に繋がってしまいました。その場で見ていた感覚だと、レフェリーにベクトルが向いてしまいましたけど、いまとなってはそれを物ともしない強さが必要だったと思います。

大枝 VARがないリーグにいるわけだし、難しいところもあるよね。だからこそ上がっていかないといけないわけだけど。

田中 ちなみに僕はリーグ戦で勝った翌々日、長野駅前のサポーターが集う居酒屋に行ったら、昔から応援しているサポーターが集まっていました。そこにはクラブスタッフの方もいて、本当に美味しいお酒を飲めました。逆に山雅サポーターの方々は相当悔しかっただろうし、大枝さんも朽ち果てていた記憶があります(笑)。

大枝 ぐうの音も出ないくらいに負けてしまったからね。レビューを書いた後、夜中に権堂で飲み明かして、泊まって松本に帰ったよ。もうヒットポイントはゼロだったね(笑)。それでも何かを発信しないと、サポーターの気持ちの持っていきどころがなくなってしまうし、そのために編集長コラムを無料公開にしたんだ。その翌週は天皇杯があって、山雅はもう敗退していたから試合はなかったけどね。

田中 いま振り返れば、パルセイロは翌週の天皇杯がターニングポイントだったかもしれません。ラランジャ京都に2-0と勝ちましたけど、その2点はセットプレーで、逆に流れの中で崩されるシーンも少なくなかった。トレーニングから少し油断が見られて、それは一部の選手たちも感じていました。試合後のミックスゾーンも、ポジティブな雰囲気ではなかったように思います。僕も実際にそう感じたので、そのありのままを伝えたつもりです。

大枝 何をピックアップしてどう伝えるかは、その人の感性だからね。この間岩手に大敗した後、霜田さんは「ダメージはありません」と言っていたけど、少なからずあったと思う。それでも「ダメージが残る」と言ってしまうと、その感覚がクラブ全体にも共有されてしまうかもしれない。文字にすると「ダメージはありません」の10文字で済むけど、問われたときの言葉の溜め方だったり、口調だったりを見ても、そう言わざるを得ないところもあったと思うんだ。監督の中には「ダメなものはダメ」と言う人もいれば、すべての責任を自分で被る人もいるから。

田中 髙木さんは「ダメなものはダメ」と言いつつ、その上で責任を被るタイプだと思います。そこも監督の色が出るので、面白いですよね。

目が離せない大野佑哉。成長した姿を

(残り 4095文字/全文: 6984文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ