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4月9日のニュース
クダ州首相は州政府予算でクダFCの未払い給料支払いの補填を使わないと明言

クダ州首相は州政府予算を選手の未払い給料支払いに使わないと明言

昨季の給料未払い問題が未だ解決せず、5月の今季開幕前にも関わらず既に勝点3の剥奪処分を科せられているクダ・ダルル・アマンFC(クダFC)。マレーシアスーパーリーグを運営するマレーシアンフットボールリーグ(MFL)は今月20日までに未払い給料の完済方針が明確にならない場合には、今季のスーパーリーグ参加に必要なクラブライセンスの取り消し処分もありうるとしています。そんな中でクダ州のムハマド・サヌシ州首相は、民営化されたクダFCに対してクダ州政府の予算から未払い給料の補填などを行うことはないことを改めて明言しています。

これを報じた英字紙ニューストレイツタイムズによると、クダ州サッカー協会の会長でもあるサヌシ州首相は、クダ州サッカー協会が運営していたクダFCが民営化されて以来、州政府は既に1600万リンギ(およそ5億1000万円)を支援していると述べて、一部のサポーターから出ている「州政府の支援が不十分だ」という批判を一蹴しています。

「クダ州政府にとってこの1600万リンギはかなりの金額である。(州政府として)この金額をクダFCの支援か、貧困家庭の支援か、どちらに使うのが良かったのかを考えてみれば、それは当然、貧困家庭の支援に使うべきなのは明らかだった。」と述べたサヌシ州首相は、クダFCの支援に必要な資金は他で探すべきと述べて、州政府の予算を倒産しそうなので民間企業の給料支払いに使われること無いのと同様に、サッカー選手の給料を支払うために使われるべきでないという主張を繰り返しています。

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「イスラム国家の樹立」を目標に掲げる超保守系政党で国政野党の汎マレーシア党(通称PAS)出身のサヌシ首相は、国政与党系政党が政権を担当するスランゴール州のスルタン、さらにアンワル・イブラヒムマレーシア首相を非難するなどの扇動罪容疑で逮捕された経験を持つ他、連邦憲法を改正して隣接する、やはり国政与党系政党が政権を担当するペナン州をクダ州帰属の州であると記載すべきだと述べなど、政府与党やイスラム教徒のマレー系と他民族間の対立を煽るような問題発言をたびたび行うことで有名です。今回のクダFC支援拒否も、元はと言えば前クダ州首相兼クダ州サッカー協会会長が国政与党出身で、その前政権が作った負債の責任を負うことを拒んでいることが原因ではあるものの、州政府の公金を使ってプロサッカークラブを雲煙するというこれまでの習わしを断ち切ろうという姿勢は間違っていないように感じます。(とは言え、そのカリスマ性からPAS指導部の中でも重要な政治家であるサヌシ氏が、批判者からは一般的に「マレーシアのトランプ」と呼ばれている点も忘れてはいけませんが。)

このブログでも何度か来ましたが、州代表同士の対抗戦という形で始まったマレーシアのサッカーは、州政府と州を代表するクラブチームを運営する州サッカー協会の関係が強く、上で取り上げたサヌシ氏のようにこれまでは州首相が州サッカー協会を兼ねることが珍しくありませんでした。このため国内リーグの各クラブは真剣にスポンサー探しを行わなくとも、州政府から提供される資金で運営が可能でした。これは州議会多数による指名制で決定する州首相にとっても公的資金を注ぎ込んでの州を代表するクラブチームを強化すれば集票につながるとして、この仕組みは常態化していました。

しかし2019年にFIFAの指導を受けたMFLが州政府からの公的資金に頼らず民間企業をスポンサーとする「クラブの民営化」方針(州サッカー協会「州FA』所有から民営化された「フットボールクラブ(FC)」とすることを「FAからFCへ」方針とも呼ばれました。)を打ち出したことで状況は一変します。公的資金が投入されなくなった各クラブは、それまでの州サッカー協会による運営から、新たなオーナー企業探しに奔走することになります。ちなみに古い記録を見ると現在のスランゴールFCがスランゴールFAと書かれているのは、この「FAからFCへ」方針による変更です。

公的資金による支援を徐々に減らし完全民営化に移行する「FAからFCへ」の方針は間違えてはいなかったものの、実施したタイミングは最悪でした。翌2020年初頭には新型コロナが猛威を振るい始め、3月には国内全土に活動制限令が発令され、州を跨いでの移動が全面禁止となり、2月末に開幕していた国内リーグは数節を終えたところで中断されます。9月に再開したものの1回戦総当たりで1部スーパーリーグは各クラブがわずか11試合しかできませんでした。大幅な試合数減に加え、このシーズンはリーグが再開した9月以降は無観客試合で行われた結果、各クラブの入場料収入に大きなダメージがありました。さらにコロナ対策で各州政府が当初の予算にはなかった支出を強いられたことで、クラブチーム支援のために組まれていた公的資金もコロナ対策に振り分けられた結果、各クラブの財政が逼迫し、給料の遅配、そして未払いという流れができてしまいました。さらにこの流れはさらに2021年も続き、その年の運営資金で前年の未払い給料を支払うという自転車操業でやりくりするクラブの中から、2023年シーズンにはマラッカ・ユナイテッドFCとサラワク・ユナイテッドFCが、そして今季2024/25シーズンにはクランタンFCが、いずれも給料未払い問題未解決を理由にクラブライセンスが発給されず、スーパーリーグに出場することが認められませんでした。

クダFCと同様に未払い給料問題を抱えていたKLシティFCは、本拠地のある連邦直轄地クアラルンプール市役所からの「広告費」という限りなく公金投入に近い支援や、「後援者」であるファーミ・ファジル通信相の尽力などにより、問題を解決して、スーパーリーグ残留を決めていますが、「クラブ経営に困ったら政治家に頼めばなんとかなる」という図式が解消されなかった悪例とも言えるでしょう。

なお今季のスーパーリーグはクランタンFCの不参加により13チームと奇数の編成となっています。各節で試合のないチームが必ず1つできてしまうことを考えると、自ら資金調達ができないクラブはまずはそこから再建してもらい、12チーム編成とするのもマレーシアのサッカーの未来のためには決して悪いことではないと思いますが、果たしてどうなるでしょうか。

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