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「賭け」に勝った西野監督。先発7人変更の大胆采配で、タイを初のベスト8に導く【AFC U-23選手権レポート/A組③イラク戦】※本文無料記事

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「大きな賭け」だったゼロトップ

試合後の会見場、タイを大会史上初のベスト8に導いた西野朗監督は地元記者たちの大きな拍手で迎えられた。タイはホスト国の優位性を生かして52年ぶりの五輪出場を目指しているが、それはノルマではない。そもそも西野監督就任前に同予選で敗退していたチームをアジアの8強に引き上げたのだから、この大会の合格点が与えられることは確定した。

だが、この結果は盤石な戦いによって得たわけではなかった。むしろギャンブル的な要素もある「賭け」に勝利した、紙一重の成功だった。

イラク戦に臨むタイ代表のスタメンを見て驚いた。第1戦から全くメンバーを動かさなかった第2戦とは一転、なんと7人の選手を入れ替えるという大胆な選択。過去2戦ではスパチャイがワントップを務めてきたが、イラクに対してはともに司令塔タイプのMFであるウォラチットとベン・デーヴィスを前線に配する「ゼロトップ」の布陣を敷いた。

西野監督はこの選択を「大きな賭けだった」と振り返る。

「ベンに関しては全くトライしたことのないポジションです。昨日のトレーニングでも非常に体のキレ、躍動感があるプレーをしていましたので。アーム(スパチャイ)がああいう状態だったので、ゼロトップでもいいかと。両サイドが非常にスピードがあるので、イム(ウォラチット)とベン、ボランチも含めて両サイドを生かす。一つ大きな賭けではありましたけども、よくやってくれたと思います」

第2戦のオーストラリア戦でスパチャイは負傷交代していた。代わって投入されたナッタワットもフィットしていたとは言えない出来だったため、西野監督はゼロトップで左右のアタッカー、ジャルンサックとスパナットを生かす形に賭けた。

しのぎ切った紙一重の90

試合は開始早々に動く。何事もなく終わったように見えたタイのコーナーキックが、VARによってイラク選手のハンドと判定されてPKを獲得。それをジャルンサックが決めてタイが幸先よく先制した。

その後も、西野監督が「半分くらいは狙い通りだった」と言うようにベン・デーヴィスやウォラチットがタメを作って左右のジャルンサック、スパナットが仕掛ける形で何度かイラクゴールに迫る。一方のイラクもムラド・モハマッドらを中心に同点ゴールを狙ったが、タイの守備陣がなんとかしのいで1点リードのまま折り返した。

後半の立ち上がり、49分にイラクは混戦からモハメド・ガーセムが決めて同点。タイは嫌なムードとなったが、「後半勝負となることは選手たちにも伝えていた」という西野監督はここでスパチャイ、スパチョークというエース級のカードを前線に投入。スパチャイのポストプレーやスパチョークのキープ力によって、タイはゲームを立て直した。

引き分けで終わればほぼグループリーグ突破は確実な状況ではあったが、逆に負ければ無条件で終戦。そんな状況下で気の抜けない時間が続き、アディショナルタイム直前の89分にはこの試合で最大級のピンチがおとずれる。右からのクロスにムラド・モハマッドが強烈なヘディングシュートを放ったが、タイの守護神コラパットが好セーブでゴールを守り抜いた。

「賭け」に勝った西野監督はホスト国としてグループリーグ突破という責任を果たしたと同時に、1、2戦目で起用したメンバーの大半をリフレッシュさせることにも成功。もともとホスト国のアドバンテージで準々決勝では相手チームより1日有利な日程となっており、西野監督も「フィジカル的にもメンタル的にも非常に有利な状況」と話す。

「1、2戦のスタートメンバーはこれでかなりフレッシュになる。3試合を通じてチームの戦い方、狙いも統一できていると思います。正直、ディフェンスはまだまだ足りないところがありますが、そこを強化する猶予はない。中盤からオフェンシブなところでタイらしいポゼッションとスピード感、とにかく自分たちの強みを出していきたいと思います」

タイにとって、ここからは「チャレンジステージ」とも言える。目標の東京五輪出場を目指し、攻撃面のストロングポイントを前面に出してアジアの強豪国たちに挑んでいってほしい。

 

※以下、タイ代表出場選手、フォーメーション、ハイライト動画

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