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ラオスとカンボジアがAFC U-19選手権予選突破。「東南アジア」がアジアの一大勢力となる時は確実に近づいている【編集長コラム】(無料記事)

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東南アジアは決してタイだけではない

来年、ウズベキスタンで開催されるAFC U-19選手権に、ラオスとカンボジアが出場を決めた。ともに予選が自国開催であったという優位性はあったとはいえ、ラオスはオーストラリアと2対2のドロー(前半は2対0でリードしていた)、カンボジアは長く東南アジアの盟主として君臨してきたタイを2対1と下すなどしてグループ2位で本戦出場が決まった。

カンボジアに関しては本田圭佑が実質的な代表監督に就任したことで話題を集めてはいるが、日本からしてみれば、ラオスもカンボジアも「アジアの弱小国のひとつ」でしかないだろう。実際、カタール・ワールドカップ予選ではラオスは1次予選敗退、カンボジアは2大会連続で2次予選に駒を進めているが、イランに0対14という大敗を喫するなど、「弱小」のレッテルを貼られても仕方のない結果となっている。

だが、アンダー世代に目を向けると話は違う。チャナティップやティーラトンらの活躍によって日本では「東南アジアと言えばタイ」という感じだろうが、近年のアンダー世代の戦いぶりを見るとタイは東南アジアにおいても絶対的な存在ではない。むしろ東南アジアというエリアが決してタイだけではないことを証明するような結果が続いており、今回のラオスとカンボジアの躍進もその象徴的な出来事と感じる。

AFC U-19選手権における過去の戦績を調べてみると、カンボジアは1963年、72年、74年の3大会に出場しており、ラオスも70年大会に出場してベスト8まで進んでいる。他の東南アジア勢もミャンマーが韓国に次ぐ7度の優勝を誇るのをはじめ、タイも2度頂点に立っている(日本は優勝1回のみ)。Jリーグの誕生によって日本がアジアの盟主となる以前の時代には、東南アジア勢がアジアで一定の存在感を持っていたことを改めて確認できる。

「末恐ろしい」東南アジアのポテンシャル

東南アジアには古くから、セパタクローに代表される「足技」の文化が根付いている。足でボールを扱うことには特別な才能を持つ人々と言っても過言ではなく、それこそラオスやカンボジアのようないわゆる“弱小国”であっても、違和感を覚えるほどに魅力的な足元の技術を持った選手たちが存在する。近年はキルギス、タジキスタンなどの中央アジア勢やインド、バングラデシュなどの南アジア勢、モンゴルなどにも躍進の兆しがあるが、「足元」に感じるポテンシャルは東南アジア勢が群を抜いていると思う。

Jリーグの誕生以降、東南アジア勢が日本よりも格下に位置してきたのは、単純に国の発展状況の問題もあっただろう。経済面や政治面で、サッカーに集中できる状況ではなかった国も多い。だが今、経済の面でも東南アジアのトップランナーのひとつであるタイに関しては、ごく普通の中間層が日本旅行を気軽に楽しむ水準にまで達した。そのことはチャナティップやティーラトンの登場とも無関係ではなく、環境さえ整えば才能ある東南アジアの選手たちは日本でもトップ・オブ・トップとなり得ることをこの2人は証明している。

ラオスやカンボジアは今も、国連の基準で「最貧国」とされている国。現状におけるタイとの国力の差は、はっきり言って相当なものだ。U-19カンボジア代表の選手たちの体つきを見ても、まるで小学生のようなサイズの選手もおり、まだ食料面でも問題のある国の現状がうかがえる。だが、逆に言えばそんな段階でもこれだけの成果が出せると捉えれば、やはり末恐ろしいエリアであると言えるだろう。

来年のAFC U-19選手権にはベトナム、インドネシア、マレーシア、ラオス、カンボジアと東南アジアから5カ国が出場する。ここに名前のないタイは大いに危機感を覚えるべきだが、タイ不在の状況で本大会出場国の16分の5が東南アジア勢であるという事実は無視できない。「東南アジア」が今の「中東」のように、アジアにおいて一定の存在感を持つ勢力となる日は確実に近づいている。

「フットボール タイランド」本多辰成

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