フットボールフィリピン

インタビュー|自分にしか見れない景色を見てきた男のストーリー【後編】記事転載

◆新天地はフィリピンの日本人経営クラブ

2016年の年末から年明けまでは、選手仲間の情報を頼りにふたつの可能性を探りました。ひとつはインドネシアで、もうひとつはフィリピンでした。まず動きがあったのはインドネシアで、プレシーズンの大会に出場してプレーを見て貰うことになりました。

実際にジャカルタに行ったのですが、大勢の選手が同じことを考えていたようで、僅かに残されている外国人枠を、親しくしている日本人選手たちと奪い合うような状況になりました。親しい選手たちと鉢合わせる境遇は、ちょっとシンドかったです。

それもあって、僕は知人を頼ってバリに移動して、当時はフィリピンのJPVマリキナFCでプレーしていた大友慧さんからの情報に備えました。リーグ戦の外国人枠が正式決定した上で、チームの外国人枠が空いた場合に、経験のあるボランチの選手を補強すると聞いていたので。

2月の中旬に大友さんから連絡があり、すぐにマニラに向かいました。大友さんと柳川雅樹さんがチームにプッシュしてくれまして、JPVマリキナFCへの加入が決まりました。ご存知のとおり、JPVはフィリピンリーグに参戦している日本人オーナーが経営するクラブで、外国人枠はすべて日本人選手、スタッフの中にも日本人がいます。

photo via jpv marikina fc

 ◆日本風からのチェンジと日本風への再チェンジ

2017年のシーズンは、プレーするチームが変わっただけではなく、かなり日本風なサッカーをすることになりました。日本人選手が4人いて、日系フィリピンハーフ選手も4人いて、実際の練習メニューもセンターバックの柳川さんがやっていましたので。ローカルの選手たちもチームカラーをよく理解していました。

でも、僕自身はアルビレックス新潟シンガポールでやっていた、2012年シーズン以来の環境だったので、実はフィットするまで少し時間を要しました。でも、日本語で言い合えることとか、逆に言わなくてもできることとか、メリットがたくさんあるので、また元の自分に再チェンジしました。

今シーズンは、僕以外の日本人選手がすべて入れ替わって、昨年の主力数人も引き抜かれて、唯一残った僕がキャプテンを任されました。新たに加入した日本人選手を主軸に、柳川さんが残してくれたサッカーを、今のローカルの監督が継承して、フィリピンリーグを戦っています。

JPVは良くも悪くも、日本人選手が牽引していかないと戦えない。残念ながら、日本風以外のオプションは存在しません。現在、リーグ戦では下位からの脱出を図っているのですが、圧倒的な戦力差を補うには、やっぱり日本人選手と日系フィリピンハーフ選手が中心となって、徹底抗戦して行くしかないと考えています。

僕には柳川さんの代わりなんて到底務まりません。できることは、対戦相手をしっかり研究して、できるだけ自分たちのペースで相手と対峙するということですね。僕自身はJPV2年目ですので、去年よりもしっかりとアジャストできています。

photo via jpv marikina fc

◆いつか何かを伝えることができるサッカー人生

今シーズンが終わると、アジアでちょうど10年プレーしたことになります。僕なんて、日本の底辺の底辺からアジアにきたので、毎年続けてこれたことには満足しています。強い気持ちがあれば、どこでやるにしても、そこでやる覚悟があればサッカーを続けられる、ということを証明できたと思います。

これまで、いろんなキャリアの日本人選手と一緒にプレーしてきたけど、努力も苦労もしないでやってきた選手なんていないです。やれる実力があるのにメンタル弱い選手もいたし、逆にメンタルだけ強い選手もたくさん見てきました。

とにかくやり続けるしかなかった。諦めたり辞めたりしたらすべて終わると思っていました。やり続けるということは、それはどうにかなる可能性が残るということ。確かに紆余曲折のあったサッカー人生でしたよ。でも、今の状況がいちばん良い人生だと思って生きてきた。大変だなと感じたとしても、それは良いことなんだと思うようにしてきました。

僕はJリーガーにはなれなかったけど、アジアの国のトップリーグの公式戦で300試合近く出場することができた。ですから僕は後に、同世代やもっと若い選手たちにアジアの現実を伝えることができるはずです。いつか何かを伝えることができるサッカー人生を歩んできたと思えるので、アジアで経験を積んできたことには満足しているんです。

ロナウジーニョに憧れて、それまで守備なんて一切やらなかった僕が、アジアの国々ではボランチやってることを地元の友だちに話したら、マジかっ!お前がボランチって!って大笑いされましたけど。

僕はたぶん、自分にしか見れない景色をこの眼で見てきたんだと思います。(了)

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