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佐久長聖はなぜリーグ不参加? 2度目の全国目指し北信越へ ※無料

「公式戦のメリットとデメリットを理解した上で、どうチームを強化するか。将来的な目標と、3年間での目標がある中で、その2つを達成するための着地点は何か。そう考えて答えを導いた」。創部当初からチームを率いる大島駿監督の弁だ。

全日本高校女子サッカー選手権長野県大会を4連覇した佐久長聖高校。創部7年目ながら、県内で無類の強さを誇る。学校として『世界の佐久長聖へ』と教育方針を掲げており、県内外から海外志向を持つ選手たちも集う。それだけでもインパクトは絶大だが、一番の驚きはリーグ戦に参加しないことだろう。

リーグ不参加も、幅広い対外試合で強化

2017年の創部以降、リーグ戦と皇后杯に参加したのはいずれも2年のみ。全国高校総体と全日本高校女子サッカー選手権には出場するものの、年間の公式戦は多くとも10試合ほどである。これだけ公の場に姿を現さない強豪校も、全国的に珍しいのではないか。部員数は23人と、今季に限った話ではないが少数精鋭だ。それを踏まえ、大島監督はこう話す。

「リーグ戦に全員連れて行ったとしても、ベンチから外れるメンバーは数名いる。その後に練習試合をしたとしても、リーグ戦に出た選手を使わないと足りないこともあって、負荷が上がってしまう。逆に1試合だけとなると、出られなかった選手たちが何もできない。『リーグはそういうものだ』と言われればそれまでだけど、もっと他の強化の仕方はある

大島駿監督

選手だけでなく、スタッフも4名とそう多くはない。仮にリーグを戦うとなれば、運営にも人員を割かれる。さらに過密日程を考慮し、スケジュールが縛られる側面もある。何を重視するかはチームによって異なるが、指揮官は「ゲームをしたらうまくなるかと言えば、うまくなる集団とうまくならない集団がある。それだったらうまくなる集団にしてからゲームを迎えたほうが、よりゲームの価値が上がる」と捉える。要はトレーニングに時間を割くことが先決なのだ。

日程に縛られないことによって、“練習期”と“試合期”を自由に組める。女子の相手だけでなく、男子の中学生から大学生まで、性別や年代にかかわらず対外試合を実施。3年生の川渕碧空は「男子と戦えるのはすごくいい。あのスピードに対応できれば、女子との試合で優位に立てる」と話す。今夏には格上の女子高校生チームにも臨み、2年生の馬崎仁菜は「全国レベルのスピードを感じられた。その強度を持ち帰って練習できている」と前を向く。

馬崎仁菜

夏場は対外試合が盛んに開かれる時期で、佐久長聖も3泊4日の遠征を行った。毎週のように対外試合を組んだのかと思いきや、意外にも約2週間のオフを過ごしたという。その理由を尋ねると、指揮官は「スポーツだけでなく、生活面でも猛暑による事故が増えている。取り組み方を変えていかないといけない。夏に休んでいるチームが勝つようになれば、それが一つの前例になる」と明かす。どこまでもチャレンジングなチームだ。

スタイルへの自信。2度目の全国出場へ

とはいえ、リーグ戦に出ないことによるデメリットもある。「唯一欠陥しているのは、公式戦ならではの緊張感を知ること。そこに対するマインドセットは日常からやっていかないといけない」と指揮官。馬崎が「公式戦のときは良い緊張感だと思ってやっている」と言えば、川渕は「練習試合で積んでいくしかない。難しいところもある」と話す。緊張の捉え方や感じ方は、選手によっても異なるようだ。

一方で川渕は、「リーグ戦に出ると相手チームに自分たちの特徴が伝わるので、やりづらいところもある。そう考えると、リーグ戦に出ないほうが優位に進められる部分もある」とも口にする。佐久長聖のスタイルからしても、つかみどころを感じさせない。パスのテンポや立ち位置を取るスピードが速い上、プロでも難解なトレーニングをこなし、状況判断にも優れているからだ。

川渕碧空

全日本高校女子サッカー選手権の県決勝では、東海大諏訪に4-2と快勝。複数失点こそ喫したが、攻撃に重きを置いた側面もあったという。2得点を挙げた馬崎は、中盤以降ならどこでもこなせるユーティリティープレーヤー。とりわけボランチを得意としており、「点を取れるボランチになることを意識している」。同じく2得点の川渕も「スピードだったりドリブルという武器を生かして、得点に関わるシーンが多くなった」と手応えを得る。

10月21日(土)から北信越大会が開幕。1回戦で金沢伏見(石川)と戦い、準決勝に進めば開志学園JSC高(新潟)と当たる可能性が高い。3位以内に入れば、2度目の全国出場を果たせる。開志学園JSC高に勝って決めたいところだが、昨季の決勝で0-6と大敗した相手でもある。「簡単に守れる相手ではないし、簡単に攻撃できる相手でもない」と大島監督。昨季のトーナメントでは主に守備から入る形を取ったが、「今年はリアクションではなくアクションで、自分たちの土俵に持っていきたい」と力を込める。

その根底にあるのは、自分たちのスタイルへの自信だ。「去年のチームと比べても、今年は攻守において完成度が違う。インターハイ(総体)のときとも違って、また新しい長聖になっている」と川渕。その上で「負けたら本当に最後。生活しているだけでも緊張するけど、それだけ勝ちたい思いがある。チームのために体を張って、ボールを繋いで、最後は誰が決めてもいい。できれば自分が点を決めたい」と意気込む。独自に積み上げたスタイルを、表舞台で花開かせるときだ。

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